わたしはだれ…

あなたはだれ…

あなたは…あなた

じゃあ…


わたしは…だれ…





第6話 「わたしは…わたし(前編)」


「ただいま〜」

「おかえりなさ〜い」

部屋に入るとすぐにリーフが飛んできた。

そんなにパンケーキが待ち遠しかったの?

「ほら?買ってきたわよ。二袋くらいでたりるよね?」

袋を開けて一つ差し出す。

さっそくかぶりつくリーフ。

ちょっと目を離した隙にあっという間に一つ食べ終えてしまった。

…はやくない?

「そうですね〜。2日もつかもたないかですね〜あ、二つ目もらって

いいですか?」

はい、って渡してあげる。

やっぱり結構食べるなこの子。明日も買ってこようかな?

で、ふと思った疑問を口にしてみる。

「ところでアンタ、お風呂とか入らなくていいの?」

「唐突ですね。う〜ん…どっちでも大丈夫ですね。私は普通の人間と

は違うので」

あ、そうか。

この子はダイヤモンドハートの一部みたいなものだし。

でも、どっちでもいいなら…、

「そう?じゃあ今日は一緒に入らない?」

「え…別に構いませんが…」

やっぱりキョトンとした感じでこちらを見るリーフ。

「じゃあ私は夕食を食べてくるわね」

「は、はいー」

腑に落ちないような顔をしたリーフを置いて私は食堂へ向かうのだっ

た。



リーフを大浴場へ連れてきた。

リーフは小さいので体に合うスポンジがないーとか考えてると衝撃の

一言が。

「わたし…大きくなりましょうか?」

「へっ?」

なんだって?

「あんた大きくなれるの?」

「はい。なれますよ小さい方が燃費がいいので普段はそっちですが…

お風呂に入ってる時間くらいなら問題ありません」

なるほど。すぐにお腹が空くのね。

小さいときにあれだけ食べるんだから大きくなったら…ってことね。

「じゃあ大きくなりなさいよ。せかくのお風呂なんだし」

「…では」

パァァァァッと光るとリーフは私より少し年下くらいの大きさになっ

た。

「なんか新鮮ね」

「そうですか?」

だってアンタ、いつも小さいじゃない。

いつものようにお喋りしながら体を洗い、次は髪というところでリー

フの動きが止まった。

「どうかした?」

「いえ…あの……」

言い出しにくそうにうつむくリーフ。

「なによ?恥ずかしがらないで言ってよ」

「えと…実はですね……髪の毛…一人じゃ洗えないのですよー……」

なんだそんなことか。

「ふぅ。じゃあ私が洗ってあげるわ」

「あ…ありがとうございます」

「別にいーわよ。私の友達もね一人で髪の毛洗えないのよ。今はどう

かしらないけど…」

シャンプーハットをリーフの頭に被せる。

私は手にシャンプーをつけてリーフの頭をつかみにかかった。

「そうなんですかー?」

「そうなの。フェイトっていうんだけどね。私と同じ金髪で…って知

ってるかな?」

「…フェイト…T・ハラオウンですね…」

「?」

なんだろう。リーフの声のトーンが下がった気がする。

「ほらっ!しっかり目をつぶってなさい」

「はっ、はいっ!」

私は会話を切るように大きな声を出した。

自分からふっといてなんだけどさ。なんとなく…この話題はリーフに

とってつらいような気がした。

「アンタ髪綺麗ね〜」

「まあ、”ダイヤモンドハートの精”ですから」

なんて自慢げに答えるから小憎らしい。

私は髪にシャワーを当ててシャンプーを落とした。

次はリンスね。にしてもこの子の髪は本当長いわね。

「まだ、終わらないですか〜?」

「もう少しだから我慢してなさい」

「…は〜い」

なんかつらそうだからさっさと終わらせてやるか。

ていうか、もしかしてシャンプーしなくてもよかった?

お風呂自体どっちでもいいんだし。

でも、こういうのは雰囲気よね。

「…ねぇ、アリサちゃん」

と、そんなことを考えてると唐突に話を振られる。

「ん?なによ?」

「どうして…お風呂一緒に入ろうって思ったんですか?」

「え」

ああ、さっきの表情はそういうことか。

まったくこの子は…。

遠慮しがちというか、なんというか。

「簡単な理由よ」

さっきと同様にシャワーを当てる。

リンスを落としてやると綺麗な黒髪。

「一緒に入ろうと思ったから。それじゃあ駄目かしら?」





お風呂から上がり宿題に取りかかった。

まあ、すぐに終わってしまったわけだが。

算数なんてこのアリサ様にとってはちょちょいのちょいよ。

さて、お茶でも飲もうかなーなんて椅子から立ち上がる。

「リーフ?あんたも飲む?」

リーフはテレビを見ていた。

なんか、見たいというので宿題をやる前にテレビの説明をしてやった

のだ。

多分、珍しいんだろうな…。

「あ、私はミルクティーが…と思ったのですが…どうやらお茶は帰っ

てきてからのようですね」

リーフの顔は先ほどとは違い、真剣になっていた。

「…もしかしてダークシード?」

リーフは静かに頷く。

私はダイヤモンドハートを首に下げ窓から飛び出した。

夜の風が心地良い。

「じゃあいくよリーフ…!ダイヤモンドハート…セットアップ!」







アリサはリーフに案内されてダークシードが発動した場所にたどりつ

く。

そこは夕方にはやてと話した公園だった。

「アリサちゃん…っ!来ます!!」

「!!」

不用意に近づいてはいけないとアリサは空中でブレーキをかけた。

公園の中心がピカッと光ると突如、黒い球体が出現した。

普通のボールと形は変わらないが大きさは昨日の黒い巨人ぐらいだ。

球体はアリサの方に針のような物を飛ばしてくる。

しかし、リーフが展開したラウンジシールドに阻まれた。

「ムーンライトブレイカー…行けますか!?」

「うん…やってみる!」

アリサは精神を集中する。

(昨日と同じようにやればいいんだ…大丈夫、出来る!)

その間、リーフは球体と攻撃を防いでいた。

針では駄目だと思ったのか触手やらボールやら色々出して来るもリー

フのシールドは決して破れない。

彼女はアリサを守る盾なのだから。

だが、リーフの胸には不安があった。

(どうして…敵はあそこから動かないの…)

もしかしたら動けないのかもしれない。

しかし、それではどちらにせよアリサの砲撃の的になってしまう。

(何を考えているのかわからない…!だけど…)

そう、アリサの砲撃が決まれば終わる。そう思った。

「リーフ!出来た!!」

そうこう考えているうちに準備が出来たようだ。

「こっちも大丈夫です!撃って下さい!」

「ムーンライト…ブレイカーー!!」

ダイヤモンドハートから放たれた月の光は球体を包み込み消滅させる

…、はずだった。

「うそ…直撃したはず…」

リーフが驚くのも無理はない。

ムーンライトブレイカーが放たれた場所にはさきほどと変わらずに球

体の姿があった。

「無傷…?」

ムーンライトブレイカーが当たれば終わると思っていたアリサは動揺

した。

この一瞬の隙に球体は針を放った。

「!!」

(まずいっ!シールドが…間に合わない!!)

真っ直ぐにアリサに向かう針を防ぐ手だてがリーフにはなかった。

アリサが魔法を使った時の硬直をこんなにも正確に狙われるとは…
計算違いだ。

アリサも針が来るのはわかっていたが動くことも出来ない。

(あたる!?)

ぎゅっと目をつぶったその時だった。

「行くぞ…レヴァンティン…!」

アリサの頭上から凛と透き通った声、それと同時に針が打ち落とされ

る。

アリサは声がした方をみた。

そこには、アリサの友を守り抜く騎士の姿があった。

「大丈夫か、アリサ。苦戦しているようだな」

「シグナムさん!!」

アリサは先ほどの動揺から解放され、明るい表情を見せる。

「主はやてに頼まれてな…しかし、砲撃がきかぬとはやっかいなやつ

だ…どうする?」

「う…」

アリサは困惑する。

アレをどうにか出来るのは自分しかいないのに自分の攻撃が通用しな

い。

正直どうしたらいいかわからない。

「わたしに考えがあります」

先ほどから黙っていたリーフが口を開く。

その視線は真っ直ぐにシグナムをとらえていた。

「シグナムさん…ですね。援護をお願いしてもいいですか?」

シグナムはその視線を真っ直ぐに見返す。

「いいだろう。そのためにきたのだしな」

リーフはシグナムの答えに頷く。

「ではあいつの攻撃を引きつけておいてください」

「了解した」




シグナムは公園に降りて球体と対峙した。

すると地面からシグナムと同じくらいの大きさの球体が現れる。

「……いいだろう…レヴァンティンの錆にしてくれる…」

シグナムはレヴァンティンを構え直し球体に向かって走り出した。




「リーフ?考えって?」

シグナムの登場によりアリサは冷静さを取り戻していた。

だが、ムーンライトブレイカーが効かない以上、球体をどうにかする

のは難しい。

「…剣です」

「剣?」

「おそらく…あの球体は昨日のアリサちゃんの戦いを見て対策してき

たんだと思います。ですから昨日とは違うダイヤモンドハートなら…



「勝機はあるってことね」

こくり、と頷くリーフ。

「わかった。イメージしてみる」

すっ、と目を閉じ集中する。

(剣…。簡単そうで難しいイメージね)

アリサの頭の中でイメージがふくらんでいくがどれも形になっては消

えていく。

何本目かのイメージが崩れたとき、アリサの頭の中にある映像が流れ

てきた。

(!?これは…フェイト!?)

城の中で漆黒の戦斧、バルディッシュを掲げるフェイト。

それがアリサのイメージに割り込んでくる。

映像の中のフェイトは漆黒のマントを身にまとい、バルディッシュは

その姿を柄に変えた。

バルディッシュザンバー。それがその柄の名前だ。

(でも…こんなの…!?)

そう、アリサはこんなフェイトを見たことはなかった。

いや、正確にはみれるはずもない。

このフェイトは現実世界にいるフェイトではないのだから。

だが、アリサにはそのようなことはわかるはずも、考える余裕もない



(とにかく…このイメージ……フェイトが持っている剣のイメージ!

!)

アリサは目を開けた。

「ダイヤモンドハート…ザンバーモード!!!」

杖の姿をしたダイヤモンドハートが形を変え柄になる…。

その柄には光り輝く刀身。

「そうです…それがダイヤモンドハートのもう一つの力…アリサちゃ

ん。私たちも降りましょう」

「うん!行くよ…!」



下ではシグナムが小さい球体を切り裂いたところだった。

「シグナムさん!!」

タッ、と着地してシグナムの横に行くアリサ。

「なるほど…ザンバーか」

なぜか嬉しそうな顔を浮かべるシグナム。

「シグナムさん…引き続き援護をお願いします。ザンバーで攻撃をし

かけます。アリサちゃんの道を作って下さい」

「わかった」

シグナムは後ろにさがった。

そこがアリサへの攻撃を迎撃できる距離なのだろう。

「アリサちゃん。わたしとシグナムさんで道を作ります。アリサちゃ

んはそのザンバーで球体を切って下さい」

「うん、わかった」

「では…行きます!!」

球体が再び攻撃を開始する。

先行するリーフはシールドを展開して自分たちの身を守る。

さすがに集中攻撃を受けてはリーフのシールドも破られてしまう。

シグナムの援護があってこその特攻だった。

アリサはリーフのあとを全速力で駆ける。

手にはザンバー持って。

そして、ザンバーの射程距離に球体をとらえる。

シグナムはそれを見越して球体に攻撃を仕掛けた。

先ほどの戦いで、球体は攻撃を受けたときに動きが止まることは分か

っていたからだ。

「アリサちゃん…今です!!」

アリサは両手でザンバーを握りしめる。

「…月光一閃!!!!ムーンライト…ザンバーー!!!」

大きく振った剣は球体を真横から両断した。





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