だからはじめよう。

世界を壊す旅を。

世界を作る旅を。

全てをはじめる旅を。

…はじめよう。



第10回 「すでにその手にあったモノ」




「アリサちゃん…」

アリサは動けなかった。

動きたくなかった。

自分がしたことが許せなかった。

この世界に納得がいかなかった。

そんなアリサを見て、リーフは何も言えなくなった。

本当は言いたいことがあった。

でも、やめた。

「まあまあだったかな」

その声は夜空から。

アリサとリーフは空を見た。闇夜に紛れる少年の姿を。

歳の頃は14歳くらいだろうか。黒のローブに身をまとっていた。

「だけど、もう少しいい顔してくれると思ったんだけどなぁ。残念」

なにを言ってるのか分からなかった。

「もっといい顔みたいな。次は、そうだな…。君の大切なお友達にひどい

ことをしてみようかな」

ニヤリと、いやらしく少年の口元が歪んだ。

アリサは直感した。そして、次の瞬間には飛び出していた。

「アンタがぉぉぉぉっ!!!」

杖の先に魔力の刃を宿らせ、一気に相手を打ち貫くイメージ。

しかし、そのイメージも相手の結界に阻まれる。

「いいスピードだね。だが、パワーが足りないっ!」

「っ!このぉっ!」

拮抗する力と力。

「そらっ!」

少年は結界に内側から魔力を加え膨張させ破裂させた。

その衝撃でアリサが地面に吹き飛ばされる。

「アリサちゃん!」

リーフはアリサを守るために落下予想地点に移動し、魔力で作った結界(

クッションのようにして)を作った。

しかし、うまくアリサを受け止めるもいかんせん勢いが強すぎる。

身をていしてアリサを庇うしかなかった。

「……っ!リーフ…大丈夫?」

「…はい、しかしもう…魔力が……」

リーフはアリサを結界で支えられなかったときとっさに自分の背中に先ほ

どの結界を作っていた。

ただ、構成時間が短すぎて完全なモノは作れなかったが。

「なんだ、もう終わり?意外と楽しめない?」

「このぉ……」

アリサは立ち上がろうとするも力が入らない。

杖を持ってる右手を相手に向けるのが精一杯だった。

「仕方ない、火事場の馬鹿力ってやつ?あれを見るのも好きだからね」

少年は手のひらをアリサに向けると魔力を集めた。

「じゃあ、頑張って避けてね」

邪悪な笑みを浮かべると、膨大な魔力を躊躇なく放った。

アリサは震える手で最後の魔力を練る。

しかし、届かない。

ついには集中も切れ、魔力は分散してしまった。

避けることも出来ない。

無力な少女は、ただただ待つことしか出来なかった。

(だめ、無理だ…こんなところで終わるの…っ!?終われないよ…!どう

したら……フェイト、すずか、はやて……)

少女は叫んでいた。

時にはケンカして。

時には支えて。

そして、笑いあった親友の名前を。

「助けて、…なのはぁーーーーっ!!!!」

瞬間、ピンクの光がアリサを照らし、少年の魔法を吹き飛ばしていた。

プシューッ!ガコンッ!

「お待たせアリサちゃんっ!」






少女は闇夜に舞う。

白いジャケットをその身にまとい。

信念を宿した瞳で一点を捉えていた。

「一撃で消し飛ばすよ!」

”オーライ、マイマスター”

魔法構築は一瞬。

杖の先に魔力を凝縮し、邪悪な魔力へ解き放つ。

「ディバイーーン………バスターーーっ!!!!」

光の魔法は全てを吹き飛ばし、大切なモノを救う。

「お待たせアリサちゃんっ!」

なのはは金髪の少女のそばに降り立つと絶対不敵の笑みを浮かべた。







「おまえはっ!」

少年からは先ほどの笑みは消え、変わりに敵意に満ちた表情を浮かべた。

少年はなのはを知っていた。

その少女は泣いていた。

父親は重傷を負い、助からないかもしれなかった。

少女は毎日泣いた。毎日、毎日。

しかし、ある時少女は立ち上がった。

このままではいられないと。

なにか出来ることがあると。

少女は顔を上げた。

前を向いた。

そして、少女は走りだした。

前へ、前へと。

「高町なのはぁっ!!!!」

少年は感情をむき出しに弾丸のように飛び出した。

ガキィィィッッ!!

魔力を集めた手のひらとなのはの魔法障壁がぶつかる。

「アクセルシューターッ!」

「っ!!」

レイジングハートの周りにいくつかの光弾が出現する。

少年はすでに、なのはから飛び退き、距離を取っていた。

「シュートッ!」

しかし、その距離はなのはの得意とするミドルレンジ。

いくつもの光弾が数々の軌道描く。

が、少年は身を翻し全ての光弾を避けきる。

なのはは杖を天に掲げた。

「レベル2!」

”オーライ”

なのはの掛け声に合わせ、少年が避けた光弾が少年の真上に集まり一つ光

弾となる。

「ブレイクッ!」

杖の切っ先を振り下ろし、相手に向ける。

主の命令に従い、光弾は分散し少年に降り注いだ。

流石の少年でもこれは避けきれず被弾。

服に数々の焦げの後を残した。

「…”不屈のA’s”高町なのはか」

「……」

なのはと少年は睨み合った。数秒ほどたち先に動いたのは少年だった。

「明日だ。全てを終わらせてやる」

少年は眼を伏せ、なのはに背を向けた。

「……どういうこと?」

その問いには答えずに、少年は漆黒の闇に消えた。





続く


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